山手通り



僕は山手通りを埋め尽くしている 車の列の中に埋もれながらのろのろと車を前に進め、開け放した窓からよどんだ景色を眺めていました。


「目黒・・区・・内・・・光化学スモッグ・・警報が・・発令・・されて・・・」


外からの汚れた空気と一緒に、途切れ途切れの放送が耳に入ってきます。
きっと近くの学校か、公民館のようなところからながれてくるのでしょう。


そういえばさっきから、塩素のきついプールに入った時のように 目がシバシバしますし、大きく息を吸い込んだ時には、肺がキュゥッと苦しくなって 度々咳き込んでいましたっけ。


もう夏至も過ぎたので、日は短くなる一方なのだな などと思いながら車をのろのろと進ませます。

窓を閉めて冷房を入れればいいのに、と もう何回思った事でしょうか。
でも窓を開け放したまま、外のからの空気を吸い込み、肺はキュゥッとなり、僕はまた咳き込みます。

じっとりとした空気を、対向車線のトラックが黒い煙を吐き出しながら掻き回していきます。
窓を乗り越えてきた煙が鼻をつきます。

陸橋の上でも同じように車は列をつくり、なんとなく僕は外に目をやります。



マンションのベランダがすぐそこにあります。
洗濯物が黒くなりそうな 汚れた空気の向こうに、布団を仕舞いこむ女性が見えます。活気にあふれた とは言いがたいその人の背中では赤ん坊がじっとしています。その赤ん坊はもう トラックの地響きになれているのか、すっかり寝てしまっているようでした。


「頬をさす  朝の山手通り タバコの空き箱を捨てる・・・・」


聞くとは無しにかけていたラジオから、椎名林檎の歌が流れています。
窓から出した右手の辺りで そのかすれたような林檎の声と、灰色の空気が交じり合っています。
汚れた東京の空気と空に この声はよく似合うな、と思いながら僕は視線を前に向けました。



前の車がゆっくりと前に進み始めました。
僕はその後をゆっくりとつけながら、思い出したようにまた咳き込みました。










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