隙間


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 その小さな女の子は泣きながら、厚紙を猫の形に切り抜こうとしていた。  そして真っ赤な目をしたまま厚紙の上にカッターを滑らせ 昨日から姿を見せない子猫の事を考えていた。  昨日、やっと子猫のためにすてきな名前を考えたところだというのに。  そして昨日から台風がやってきて、外は大変な雨と風だというのに。  子猫は昨日から姿を見せなくなってしまったのだ。

 子猫の形に切り取った厚紙を見て、女の子は涙をぽろぽろこぼしてしまった。  自分でも涙の理由はよくわからなかったけれども、 きっと子猫の事が心配でならなかったのと、厚紙の猫のあまりのいびつさのために さらに悲しくなってしまったのだろう。

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 女の子は涙をぬぐうと、子猫がなんで姿を消したのかと言う事と、 どうしてこんなにもぽろぽろと涙が出てくるのかということにいらいらしてきて、 カッターをえいっと放り投げた。  カッターは空中をくるくるとまわり、そしてもう一度くるりとまわり、 畳の上には落ちずに空中の一点に突き刺さった。  カッターはまるで、透明の的に刺さったダーツの矢のようだった。  女の子はとても驚いて、泣いて赤くなってしまった目をぱっちりとあけ、 口もぽかんとあけながら、恐る恐る空中に刺さったカッターを取りに行った。  けれども女の子は、畳の上の、 さっき切り取ったばかりの猫の形の厚紙の上に乗って滑ってしまい、 空中のカッターを掴んだまま、前のめりに転んでしまった。  カッターの刃は女の子の手の動きと一緒に動き、空中を切り裂いてしまった。  女の子は転んだ拍子におでこを畳にぶつけてしまい、もう切なくて切なくて 仕方がなかった。  声をあげて泣きそうになった時、切り裂いてしまった空中の隙間から、 一匹の子猫が出てきた。

 尻尾をピンと立てて。
 かわいい声をあげて。

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 女の子は夢中で子猫を抱きしめて、今度は本当に泣き出してしまった。  おでこの痛いのも忘れて。

 女の子は猫を抱きしめたまま、昨日考えたすてきな名前を口にした。  猫はごろごろと喉を鳴らしただけだったけれども、きっとその名前が 気に入ったに違いない。

 そしてその次の瞬間。
 女の子の腕の中の子猫はしっかり見ていていたのだけれど、女の子がさっき切りとった、いびつな形の紙の子猫 が、空中の切れ目にすたすたと入っていって、その後すぐに不思議な隙間が ぴったりと閉じてしまったという事に、女の子はちっとも気付かなかった。


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