ぺんぺん草


■ ■ ■


 かたつむりよりも すずめになりたい。
 もしなれるのなら。そのほうがずっといい。
 針よりも ハンマーになりたい。
 もしなれるのなら。そのほうがずっといい。



 川の土手道を歩きながら、  「コンドルは飛んで行く」という歌の歌詞はこんな意味だったよなあと、なんとなく考える。  もちろんここにはコンドルなんていないけれど。  いるのは頭上高くでジュリジュリをさえずるヒバリと、 川岸のゴミをあさるカラス、そして海から上がってきた何羽かのかもめ。  そして、一人の女の子。 さっきからずっと僕の後を歩いている。

■ ■ ■

 僕の手には一本の四葉のクロバー。  さっき土手に座った時に見つけたものだ。  何とはなしに切り取ってしまったのだけれど、自分の手で切り取ってしまった後で 、地面から切り離してしまったことをふと後悔した。  少しひんやりとしたクローバーの茎が、僕の手の中でさらに少し冷たくなって しまったような気さえした。  僕はクローバーの茎をくるくる回しながら歩いていたのだけれど、 もしかするとその冷たい感覚をなんとか誤魔化そうとしていたのかもしれない。

■ ■ ■

 ふと川を見ると、白鷺がいた。  長い脚と、長い嘴と、悠然とした動き。  小学生の頃、川の縁にいけすのようなものを作って、そこに釣った魚を入れて おいた事があった。 僕が土手に上がって振りかえって見ると、 僕の作ったいけすの縁に1羽の大きな白鷺がいた。  僕が駆け下りると、白鷺は悠々と飛んでいった。  ゆっくりと羽ばたいて、首を曲げて。  いけすに駆けよってみると、魚はすっかりいなくなっていた。

 そんな事を思い出しながら、土手の上から白鷺を見る。  そして、僕は土手にゆっくりと腰を降ろした。

 魚よりも白鷺になりたい。
 もしなれるのなら。そのほうがずっといい。

 ・・・本当にそうかな。はたしてどうだろう。

■ ■ ■

 さっきから僕の後を歩いてきた女の子が、少し離れた僕の隣に座った。  隣といっても2メートルか3メートルは離れているのだけれど、 だだっ広い土手の上ではすぐ傍に感じる。

 彼女の手にはぺんぺん草があった。  茎をまわすと、ハート型の葉のようなものが一緒に揺れて、はたはたはたと音をたてる。  「これがぺんぺん草だよ。」と誰かに教えられた時、 なんで僕のぺんぺん草は、はたはたいうばかりで「ぺんぺん」と音をたてないのか 不思議に思ったことがあった。  彼女の回すぺんぺん草の音も、あの時みたいなはたはたという音だった。

 彼女が、僕の手で回るクローバーを見る。  僕の指の先で音もたてずに回る四枚の葉。  そして彼女も自分の手の中のぺんぺん草をくるくると回す。  はたはたはたという音。  草や木がもし喋るとしたら、こんな声で喋るんじゃないかと思った。

 「それと、これ、取り替えない?」

 彼女はもう一度自分のぺんぺん草をくるっと回して僕に聞いた。

 「ぺんぺん草より、その、四葉のクローバーのほうがいいもの。」

■ ■ ■

 重くなった太陽が、対岸の、右手の方の土手に落ちて行く。  僕の手には一本のくたびれたぺんぺん草。  ぺんぺん草より、クローバーのほうがいい。


 そうかな。


 ・・・そうでもないよな。


 そう思いながら僕は、くるくるくるっとぺんぺん草を回した。  僕の手の先で力無く回るぺんぺん草は、やっぱりはたはたはたと音をたてた。







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